【羽沢横浜国大駅】一層ややこしくなった「横浜市内」駅

2019年11月30日、相鉄・JR直通線(武蔵小杉-西谷間)が開業。新設された羽沢横浜国大駅を経由して、相模鉄道とJR東日本の電車が相互直通運転を開始しました。

開業当日ということで行ってみましたが、予想以上に大変な人出で驚きました。

(新宿駅停車中の相模鉄道12000系。2019/11/30@JR新宿駅)

(2019/11/30@羽沢横浜国大駅)

初日乗車リポートは、ブログ記事やYouTube動画など、ネットにたくさん溢れているので、あえてここでは省略します。YouTubeに至っては当日午前中には開業一番列車の様子が上がっていて、改めて便利な時代になったなあと実感したほどです。

ここは基本的に新幹線に関する話題を扱うブログなので、ちょっと違う切り口から今回の新線開業を見てみたいと思います。

羽沢横浜国大駅は「横浜市内」駅に

まず、羽沢横浜国大駅のホームにある駅名標をご覧ください。

(2019/11/30@羽沢横浜国大駅)

デザインは相模鉄道仕様ですが、よく見ると右上に「浜」のマークが見えます。これは、ほかのJRの駅で見られる「浜」マークと同じ意味です。

(2018/01/21@JR鶴見駅)

この「浜」マークは、「特定都区市内制度」における「横浜市内」の駅であることを意味しています。

少々堅苦しい名前のこの制度、どういうものかというと、「JR時刻表」のピンク色のページにはこう書かれています。

東京、大阪など11都市内とその都市内の中心駅から営業キロが201km以上ある駅との区間の運賃は、その都市内の外を経てから再びその都市内を通過する場合(または都市内を通過し、外を経てから再びその都市内に戻る場合)を除いて、中心駅から(または中心駅まで)の営業キロ、運賃計算キロで計算します。

例えば、「横浜市内」駅の中心駅は横浜駅なので、実際の出発駅・到着駅がそれ以外の「横浜市内」駅、例えば鶴見駅や戸塚駅であっても、201km以上の区間の運賃は横浜駅から計算します。

羽沢横浜国大駅は、2019年2月26日にJR東日本が出したプレスリリース「相鉄・JR直通線に関わるJR線区間の運賃等について」によって、『特定都区市内制度(横浜市内)を適用する駅に追加』されたことが発表されました。

【リンク】JR東日本「相鉄・JR直通線に関わるJR線区間の運賃等について」(pdf)

もとからややこしかった「横浜市内」

羽沢横浜国大駅の住所は横浜市神奈川区です。なので、「横浜市内」駅に指定されるのは当然といえます。

ただ、この「横浜市内」駅、範囲が少々ややこしいことになっています。

その象徴が、この駅名標。

(JR浜川崎駅@2018/01/21)

南武線浜川崎支線の終点、浜川崎駅です。

「浜」マークが付いているので、「横浜市内」駅です。

…ん?「浜川崎」(住所は川崎市川崎区)なのになぜ「横浜市内」???

と思いませんか?

 

実は、「横浜市内」駅には、文字通り横浜市内にある駅だけではなく、川崎市内の駅の一部も含んでいるのです。具体的には、「川崎駅・尻手〜浜川崎間各駅・鶴見線内各駅」が含まれています。なぜこういう扱いになっているのか定かではありません。あくまで推測ですが、

・尻手駅と川崎駅=南武線の中で矢向駅だけが横浜市(鶴見区)に属するので、離れ小島にならないように加えた(他の都区市内でも同様の事例あり)

・鶴見線内各駅、南武線浜川崎支線=沿線に立地する工業地帯へのビジネス需要に鑑みて、長距離きっぷの発売業務を効率化するために、横浜市にある国道駅以外もすべて「横浜市内」に含めた

あたりではないでしょうか。

羽沢横浜国大駅開業によって「横浜市内」駅に例外追加

そんな事情を持つ「横浜市内」駅の中に、羽沢横浜国大駅が今回加わりました。

そこで難題が発生。

JRで羽沢横浜国大駅へ行くには、必ず武蔵小杉駅を経由しないといけません。しかし、武蔵小杉駅は「横浜市内」駅ではないので、例えば羽沢横浜国大駅からJRで(現実にそういう経路を使う人はほぼいないと思いますが)横浜駅や新横浜駅を経由して名古屋・大阪方面へ向かう場合は、いったん「横浜市内」駅の範囲から出てから再び「横浜市内」駅へ向かうことになります。

先ほど引用した「特定都区市内制度」のルールの中に、こういうくだりがあったのを思い出してください。

その都市内の外を経てから再びその都市内を通過する場合(または都市内を通過し、外を経てから再びその都市内に戻る場合)を除いて

このルールを適用すると、せっかく羽沢横浜国大駅を「横浜市内」駅に加えても、「横浜市内」発のきっぷを使ってそこから乗車した瞬間、二度と「横浜市内」駅の範囲を通ることはできなくなります。

これでは意味がないので、例外ができました。「『横浜市内』発着となる乗車券による市外乗車の特例」です。

【リンク】JR東日本「きっぷあれこれ」-運賃計算の特例

その特例は、

「横浜市内」発着の乗車券で羽沢横浜国大から(または羽沢横浜国大まで)をご利用になる場合、途中下車をされない限り、鶴見~武蔵小杉間を乗車できます。

というものです。

これによって、羽沢横浜国大駅発着の場合、武蔵小杉駅まではいったん「横浜市内」駅の範囲を飛び出してもよいことになりました。

まだある、羽沢横浜国大駅関係の特例

しかし、まだ疑問は残ります。

市外乗車の特例がなぜ鶴見からなのか

さきほどの特例で乗車できる区間として指定されているのは、「鶴見-武蔵小杉間」であり、「羽沢横浜国大-武蔵小杉間」ではありません。

ここで振り返りたいのが、2019年2月のJR東日本プレスリリース。その中に、

鶴見駅を列車は通過しますが、運賃計算をする上での分岐駅となります。

と書いてあります。

つまり、実際の乗車が羽沢横浜国大-武蔵小杉であっても、運賃計算上は羽沢横浜国大-鶴見-武蔵小杉と通っているように扱われます。羽沢横浜国大-鶴見間は「横浜市内」駅の範囲内なので、市外乗車の特例として指定するのは「鶴見-武蔵小杉間」で足りるのです。

市外乗車の特例がなぜ鶴見-武蔵小杉間のみなのか

同様の市外乗車の特例は「大阪市内」駅にも2カ所指定されています。

・加美-久宝寺-新加美間(関西本線とおおさか東線を乗り継ぐ場合、久宝寺駅だけが「大阪市内」駅でないため)

・塚本-尼崎-加島間(東海道本線とJR東西線を乗り継ぐ場合、尼崎駅だけが「大阪市内」駅でないため)

これらのケースは、市外の駅へ飛び出す区間がぐるっと一筆書きできます。2つの方向から市外の駅へ飛び出すからこその例外なので当然です。

ところが、「横浜市内」駅の市外乗車の特例は、「鶴見-武蔵小杉間」のみ。これだと、一見、武蔵小杉駅まで飛び出し乗車しても、同じ区間を戻ってくるだけです。
なぜこういう指定方法になっているか。この理由は、相鉄・JR直通線のような「運賃計算上はホームはない鶴見駅を通過する扱い」を、横須賀線・湘南新宿ラインの新川崎-横浜間にも適用しているからです。

その証拠に、時刻表の索引地図ではこれらの路線はすべて鶴見駅を通るように路線図が描かれています。

つまり、運賃計算上、「鶴見-武蔵小杉間」のみを市外乗車の特例として設定しておけば、結果として羽沢横浜国大-武蔵小杉-横浜間の乗車もカバーできるわけです。

 

羽沢横浜国大駅に関しては、他にも「特定の分岐区間に対する区間外乗車の特例」も複数パターン設けられているなど、運賃計算上の特例がてんこ盛りです。

新横浜駅へは遠回りとなる上に、やがて相鉄・東急直通線によって繋がる予定です。なので、実際には東海道新幹線絡みでの長距離きっぷでの出番はなさそうですが、「横浜市内」駅に加えたことによってあれこれ特例が必要になったという点では旅客営業泣かせの駅といえるでしょう。

 

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