【九州新幹線西九州ルート】新鳥栖-武雄温泉間の規格はどうなる?

九州では、現在武雄温泉-長崎間で九州新幹線西九州ルートの建設が進行中。

この区間は、いわゆる「フル規格」での建設になっています。

(長崎駅付近で建設中の新幹線。2019/01/12撮影)

新鳥栖-武雄温泉間の整備方式

一方、鹿児島ルートと接続する新鳥栖と武雄温泉の間については、まだ着工されていません。最大の理由は、

『どんな方式で建設するか決まっていないから。』

特に、地元自治体である佐賀県と長崎県とで意見が対立し、話し合いも進められない状態が続いています。

これに関して、12月5日に国が話し合い実現に向けて一歩踏み込んだというニュースがありました。

<新幹線長崎ルート>国、フル前提から転換検討 4者協議実現へ譲歩 11日にも国交相と佐賀県知事会談

-2019/12/05付 佐賀新聞電子版

この記事の中で、新鳥栖-武雄温泉間の整備方式が「5択」であるとなっています。

そこで、今回はその「5択」について改めて整理します。

なお、各方式の比較については、国土交通省が2018年にまとめた資料があるので参考になります。

【リンク】国土交通省「九州新幹線(西九州ルート)の整備のあり方に係る調査について

 

リレー方式

途中駅で新幹線と在来線を同一ホーム乗り換えなどで連絡させて、列車は直通しないものの極力直通に近い利便性を確保する方式。

2004〜2011年の九州新幹線鹿児島ルート・博多-新八代-鹿児島中央間がこの方式でした。西九州ルートも、2022年度の武雄温泉-長崎間開業時にはこの方式になる予定。

2016年3月の「九州新幹線(西九州ルート)の開業のあり方に関する合意」によって、2022年度時点ではリレー方式での博多-長崎間連絡が行われることに当事者(政府与党、鉄道・運輸機構、JR九州、佐賀県、長崎県)間で同意が成立しています。

ただ、未着工区間も含めて最終的に「リレー方式」にするということは、武雄温泉-長崎間以外には何も手を加えないことを意味します。

(新八代駅で同一ホーム乗り換えだった頃の風景。2010/03/13撮影)

■所要時間

博多-長崎間:1時間22分(武雄温泉乗り換え)※現在は最速1時間50分

新大阪-長崎間:4時間(博多・武雄温泉乗り換え)※現在は最速4時間31分

 

スーパー特急方式

地上の構造物は既存新幹線と同じ規格で建設するが、線路は在来線と同じ幅(狭軌、1067mm)で敷き、在来線との直通運転を行う方式。国土交通省の用語では「新幹線規格新線」と呼びます。

どこが「スーパー」なのかというと、新線区間が高規格であることを利用して、特急列車が最高速度200km/h以上の運転を想定しているからです。

整備新幹線を低コストで建設するために編み出された方式で、九州新幹線鹿児島ルートや北陸新幹線も着工時点ではスーパー特急方式だった区間があります。ただし、いずれもその後の計画見直しでフル規格化されて開業しました。

九州新幹線西九州ルートも、武雄温泉-諫早間が当初はスーパー特急方式で着工したものの、その後諫早-長崎間を含めてフル規格に変更されています。スーパー特急方式で着工した時点では、長崎方面の特急列車は(博多-)新鳥栖-武雄温泉間と諫早-長崎間は在来線を走行、武雄温泉-諫早間は新線を走行して直通運転することが想定されていました。

地元的には、新幹線といえばどうしてもフル規格をイメージするので、スーパー特急方式は「新幹線」ではない、という反発もあります。「ウナギを頼んだらアナゴやドジョウが出てきた」と揶揄されたこともあるそうです。

武雄温泉-長崎間がフル規格で建設されているので国土交通省の調査資料では比較対象から外されています。線路の幅を狭軌にして架線電圧も在来線と同じ交流2万V(新幹線は2.5万V)にすればスーパー特急方式に戻すことは物理的に不可能ではありませんが、建設計画の見直しが必要な上に今からスーパー特急用在来線特急車両を作るには時間切れなので、非現実的でしょう。手続き的にも、いったん当事者間で同意した「リレー方式」を白紙に戻した上で工事計画の再変更が必要です。

フル規格

要するに、既存新幹線と同じ規格。九州新幹線西九州ルートの場合、武雄温泉-長崎間が現在フル規格で建設されているので、残る新鳥栖-武雄温泉間も同様にフル規格で建設する、という考え方です。

時間短縮効果は大きく、博多-長崎間は1時間を切るほか、新大阪-長崎間が3時間台前半となり、長崎空港の位置を考えると大阪-長崎間の移動は新幹線が航空機に対して絶対優位に立ちます。一方で、武雄温泉暫定開業以降に追加で必要な建設費も多くなります。

後述のフリーゲージトレインが導入断念となったので、経済効果の面から、政府与党は全線フル規格での建設を支持する立場。JR九州もフル規格に前向き。長崎県も新大阪・博多からの時間短縮効果が最大に見込めるフル規格を推進する立場です。

新鳥栖-武雄温泉間が並行在来線となるので、JR九州からの経営分離の議論が必要です。佐世保線佐世保・ハウステンボス方面の特急を現在同様博多発着にするのか、それとも武雄温泉発着として新幹線に接続させるのかといった問題も出てきます。

佐賀県内各駅と博多との間の時間短縮効果が比較的小さく、並行在来線は経営分離の可能性があり、一方で工事費の負担が重くなることから、佐賀県はフル規格での建設に反対の立場です。

 

■所要時間

博多-長崎間:51分(リレー方式比31分短縮)

新大阪-長崎間:3時間15分(リレー方式比45分短縮)

■追加となる建設費

約5,300億円

 

フリーゲージトレイン

軌道可変電車(FGT)のこと。地上設備を変えることなく、車両側で車輪の幅を調整して異なる線路幅の区間を直通運転する電車です。

武雄温泉-長崎間をフル規格で建設するにあたり、当初は前提としてフリーゲージトレインによる直通列車運転が想定されていました。

(JR武雄温泉駅のポスター。2019/01/12撮影)

佐賀県内の各駅に貼られてあるポスターには、「2022年に九州新幹線西九州ルートが開業する予定です」と書いてあり、そのかたわらに「FGT」のロゴマークが付けられています。

一見、武雄温泉-長崎間の開業について書かれているのかと思いますが、そうではありません。ポスターには県内の駅として新鳥栖-武雄温泉-嬉野温泉(仮称)間が描かれていて、その上、部分開業とも暫定開業とも書いてありません。

これは、武雄温泉-長崎間のフル規格区間開業と同時に、FGTによって博多-新鳥栖-武雄温泉-長崎間の直通運転が始まるはずだったことを表しています。

しかし、これは実現しないことが確定しました。FGTの開発が遅れたため、2017年にJR九州がFGTの導入を断念したからです。

FGTについては、その技術開発自体が高難度であることに加えて、「新大阪乗り入れを想定した時にN700系並みの時速300km/h運転ができるか」「軌間可変装置の通過時間ロス(車輪の幅を変える時に、専用線を低速で通過する必要がある)をどうするか」などの課題があったのですが、肝心の技術開発が躓いた格好です。

そして、「新鳥栖-武雄温泉間は在来線活用&武雄温泉-長崎間はフル規格建設&両区間の直通運転」という枠組みが崩れたことが、現在に至る佐賀県と長崎県の対立の一因になっています。

 

■所要時間

博多-長崎間:1時間20分(リレー方式比2分短縮)

新大阪-長崎間:3時間53分(リレー方式比7分短縮)

ミニ新幹線

山形新幹線や秋田新幹線のように、在来線区間をフル規格新幹線と同じ軌間(標準軌、1435mm)に改築して、新幹線直通特急を走らせる方式。九州新幹線西九州ルートで導入する場合は、新鳥栖駅から在来線へのアプローチ線を建設し、在来線の新鳥栖-武雄温泉間を標準軌対応に改築する形になります。

山陽新幹線へ直通するにはN700系並みの最高速度300km/hに対応する必要がありますが、秋田新幹線用E6系が最高320km/h運転を行っているので、技術的には問題ないでしょう。

国土交通省の調査資料では、新鳥栖-武雄温泉間を「単線並列」(複線のうち片方だけ標準軌化する)と「複線三線軌」(複線の両方を3本レールにして狭軌・標準軌両方の列車を走行可能にする)の2ケースに分けています。山形新幹線のような「複線標準軌」(複線の両方を標準軌化)が想定に入っていないのは、佐世保線や唐津線など接続する各線との直通需要を考慮したのと、鳥栖-鍋島間で貨物列車の運転があり、かつ代替ルートがないからです。

複線三線軌だと単線で営業運転を続けつつ改軌工事を進めるので、工期がフル規格建設(12年)よりも長い14年と見込まれています。

フリーゲージトレイン構想が事実上頓挫した現在、それに代わる方式として理論的にはあり得る選択肢です。しかし、リレー方式に比べると時間短縮効果がほとんどない(博多・武雄温泉での乗り換えがなくなるだけ)割に、改軌工事などで追加の建設費は掛かってしまいます。在来線の有効活用という視点が重視された場合には浮上するといった程度でしょう。

 

■所要時間

(単線並列の場合)

博多-長崎間:1時間20分(リレー方式比2分短縮)

新大阪-長崎間:3時間44分(リレー方式比16分短縮)

(複線三線軌の場合)

博多-長崎間:1時間14分(リレー方式比8分短縮)

新大阪-長崎間:3時間38分(リレー方式比22分短縮)

■追加となる建設費

(単線並列の場合)約500億円

(複線三線軌の場合)約1,400億円

 

 

新大阪-長崎間の直通列車は運転できるのか

仮に全線フル規格(あるいはミニ新幹線導入)で建設したとしても、長崎県が求めている山陽新幹線区間からの直通運転が果たしてどれだけ設定できるか、非常に怪しい気がしています。

新大阪-長崎間の新幹線直通列車を設定するには、

(1)単純に増発する

(2)東海道新幹線-山陽新幹線を直通する「のぞみ」の一部を新大阪打ち切りにして、新大阪以西を長崎直通化する

(3)鹿児島中央発着の「みずほ」「さくら」の一部を長崎発着に振り替える

(4)鹿児島中央発着の「みずほ」「さくら」と新大阪-博多(あるいは新鳥栖)間併結運転する

の4通りが考えられます。

このうち(1)は、山陽新幹線区間の輸送力が過剰になります。(2)は、首都圏-岡山・広島間での航空機との競争を意識して直通本数を確保しているJR東海・JR西日本との調整が必要です。(3)は、鹿児島中央方面への直通本数が減ることに対して熊本県や鹿児島県の反発が必至です。(4)は分割併合の時間ロスが発生するのと、今後山陽新幹線区間でホームドアの設置を進める際に併結運転時のドア位置に対応した設備が必要となります。

このように、どのやり方でも課題があって、事前に佐賀県・長崎県以外の当事者と調整が必要になります。

 

まとめ

結局どの方式も一長一短で、その上にただでさえ苦しい地方財政に直接響いてくる内容だけに、地元の自治体も譲れない線があるようです。

鉄道趣味的な観点でいえば、博多-長崎間のフル規格直通運転を見てみたいところではあります。しかし一方で、建設費の問題、並行在来線の問題は非常に大事です。

よって、「全線フル規格で建設」の結論ありきではなく、しっかりと当事者間で議論を進めて、地元にとって最も良い結論が出せるよう、努力して欲しいと思います。

コメントを残す